米国の瞑想家にマインドフルネスを教わって体験した3つのこと
先日マインドフルネスの指導を受けてきました。
先生はニューヨークを拠点に活動する瞑想家のデイビッド・ニックターン氏。
米国企業のマインドフルネスプログラムを開発したり、世界中で瞑想の指導を行っている人気メディテーターです。瞑想歴も40年以上の大ベテラン。
私は2014年頃から瞑想を生活に取り入れています。お寺や道場で座禅を組んだことはありますが、マインドフルネスの指導を直接受けるのは初めてでした。
会場に足を運んでみると、雰囲気はいたってカジュアル。座禅と違って宗教色がなく、アメリカ人ならではのジョークを交えた陽気な講義で瞑想を身近に感じました。
一般的に、お寺で仏教の瞑想に取り組むことは「修行」です。修行には意志力を鍛えられる素晴らしい効果があります。しかし、ピリッと張りつめた空気が一般の人には高いハードルなのも事実。
マインドフルネスはいわばランニングの練習会といった「トレーニング」感覚で受けられるため、浸透しやすいのだと感じました。
全米健康意識調査(2012年)ではアメリカ人口の約8%に当たる1800万人が定期的に瞑想を実施しているという結果もあるそうです。
10年後には「運動」+「瞑想」があたり前になるかもしれない。そんなことを思いました。
とはいえ、興味があっても周りにやってる人もいなくて始めるきっかけがない人が多いのではないでしょうか。
今回の学びを機に、「普通のビジネスパーソンのマインドフルネス体験談」が瞑想を始めたい方の役に立つと思い、ブログをつくりました。
仏教徒でもない。
脳科学者でもない。
日本で働くいちビジネスパーソンの体験談が参考になれば幸いです。
マインドフルネスに興味を持った理由
2014年の冬、会社勤めの傍ら複業を始めました。
やりたいことはたくさんある。
悩ましいのは時間が足りないこと。
今までの力ではこなせる気がしない。。。
「生産性を上げたい!」
焦りもあって色々試し始めました。
- 朝型を試す⇒朝5:00に起きてすぐ一番集中力のいる仕事をする
- 夜型も試す⇒夜22:00〜26:00に一番集中力のいる仕事をする
- 朝ランして体を温めてから仕事をする
- 日中眠くならないように昼食を抜く
- 日中眠くならないように糖質を控える
- 昼寝の長さを変えてみる
- 睡眠の質を高めるために夕食を抜く
- 筋トレして脳を活性化させる
- もちろん仕事のやり方やツールもあれこれ試してみる
などなど試行錯誤。
そのときに一冊の本を手に取りました。
GO WILD 野生の体を取り戻せ! ―科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス
- 作者: ジョンJ.レイティ,リチャード・マニング,野中香方子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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“ライフスタイルの野生化”をコンセプトにした本。
「ヒトの体は20万年前の狩猟採集民時代から変わっていない」という主張を元に、現代人が太古の生活習慣を取り戻すための食事・睡眠・運動などの方法が紹介されています。
この「GO WILD」の中で一章まるまるマインドフルネスのことが書かれています。
たいていの方は、瞑想の目的はリラクセーションや至福を得ることだと考えているようだが、それは間違っている。瞑想とは、 「今、ここ」に注意や意識を向けることであり、それはまさに野生の人々が自然環境で生き延びるために必要なことなのだ。
出典:GO WILD
マインドフルネスは当時から話題になっていましたが、私の認識は上記の通り「座禅をして心を落ち着ける」程度のイメージでした。
しかし、本書の「今、ここ」というキーワードにピンときました。なぜなら「フロー状態に意図的に近づける方法かもしれない」と考えたからです。
フロー状態とは「今」に完全に集中・没頭している精神状態です。瞑想でフローに入れれば生産性は大きく上がるはず。そう考えた私はマインドフルネスを調べていきました。
参考:フロー (心理学) - Wikipedia
マインドフルネスとフローの関係性
「今、ここ」というキーワードを使うとこのように整理できると思います。
- フロー=「今、ここ」に集中・没頭している状態
- マインドフルネス=「今、ここ」に意識を向けている状態
- 瞑想=「今、ここ」に意識を向けるためのツール
こう考えると瞑想からフローに到達する3→2→1の流れはシンプルです。
「今、ここ」に意識を向けるために瞑想する
「今、ここ」に意識が向いたマインドフルな状態になる
「今、ここ」に集中したフロー状態に入る
段々と深い集中状態に入っていくイメージです。
実際に「究極のマインドフルネス」は「フロー状態」であると提唱する研究者もいます。その記事によると、フロー状態になるための条件を以下の3つとした上で、興味深い僧侶の瞑想法を伝えています。
<フロー状態になるための条件>
- 高いストレス・不安
- リラックス
- やるべき行為への集中
僧侶は、深い瞑想に入るときに、まず「とても苦しい思いをしている人、可哀想な人」を思い浮かべ、自分に高いストレスをかけます。次に、その人を自分が救って差し上げて、幸せになるイメージをもつことで一気にリラックスし、そして深い集中状態に入るというのです。
一方、マインドフルネスは「行為(呼吸など)を意識的に観察している状態」であるため、「意識を忘れて没頭する」フロー状態とは異なるという意見もあります。
同じ概念なのかフローに到達する前段階なのかはともかく、科学的にもマインドフルネスが集中力を高めることが実証されているため、一定の効果があることは間違いなさそうだと感じました。
あとは自分に効果あるかどうか。
実践して検証することにしました。
ちなみに仏教では「俗世の様々なことに執着しない心を育てる」ために瞑想を行います。「苦しみの原因は執着であり、生への執着すら捨てればすべての苦しみから解放される」と考えているからです。
しかし、マインドフルネスでは事業の成功や人間関係の改善など、世俗的な目的のために瞑想を行います。それぞれのスタンスが、マインドフルネスと仏教瞑想の一番の違いといえるかもしれません。
私は思いっきり生産性への執着を持ってスタートしましたが、執着を捨てるという考え方は学んでみると非常に斬新でした。機会があればブログで考察しようと思います。
マインドフルネスで何が起こったか?
まず、マインドフルネスで集中力は上がったのか?
結論としてはイエスです。
集中力が必要な作業に取りかかる前に、たった60秒でも瞑想をすると「スッと集中できる」ことが多くなりました。
60秒ではダメなときもあり、その場合は3分、4分と続けます。瞑想中一つのことに意識を向け続けられたときは、短い時間で集中できます。
例えば呼吸を数える瞑想をする場合、60秒経つ前に呼吸から意識が離れて他のことを考えてしまうと、集中するまでにもう少し時間が必要になるという感じです。
呼吸を数える瞑想だけでも効果がありました。
しかし、マインドフルネスを続ける中で、また今回デイビッド氏の瞑想法を体験して、集中力アップ以外にも大きな変化を感じることができました。
私が感じた3つの効果です。
ひとつずつ体験談を書いていきます。
体験1:デフラグするみたいに頭がクリアになる
瞑想で頭がスッキリする効果はよくスノードームに例えられます。
普段はあれこれ考えていて、頭(スノードーム)の中には思考(雪)が舞っています。意識を一点に集中すると、思考(雪)は落ち着いていき、頭(スノードーム)がクリアになります。
私は月に数回、頭の中が忙しくて落ち着かなくなることがあります。普段と比べるとやたら混乱していて思考が深まりません。
以前は気になっていることをすべて書き出す方法で頭をクリアにしていました。これでも一定の効果は得られますが、マインドフルネスではより大きな効果を体感できました。
やり方は3分間呼吸を数えるだけです。
ただ座って、リラックスした状態で呼吸をカウントします。うまく呼吸に意識を向けられれば、短い時間で頭がクリアになっていくのを実感できました。
一般的に「サマタ瞑想」と呼ばれる瞑想法です。
参考:サマタ瞑想 - Wikipedia
初めて大きな効果を体感したのは新幹線で瞑想をしたときです。そのときは出張の帰りで頭が落ち着かず、まったく作業に集中できませんでした。イスに座って目を閉じ、呼吸に意識を向けて20分ほど呼吸を数え続けました。
目を開けると周りが驚くほど静かになったように感じました。頭が冴えて、気持ちも落ち着きました。目覚めの良い朝みたいな感覚です。
このときは瞑想を始めてから1ヶ月くらいしか経っていなかったのですが、予想以上にスッキリできるようになっていて、正直驚きました。
デイビッド氏は、スノードームに雪が舞っている状態を「頭の中にいる猿が暴れ回っている」と表現していました。このイメージはしっくりきます。落ち着きがないときは、たくさんの思考がスーパーボールのように頭の中を跳ね回っている感覚を持っていたからです。
しかし、その状況も簡単な瞑想で少しずつコントロールできるようになってきました。瞑想は跳ね回るカラフルなスーパーボールが整理整頓されていく時間。PCをデフラグするみたいに頭がクリアになります。
体験2:自分をコントロールする意志力が身に付く
この効果は上記の瞑想とは違う方法で得られました。自分の知覚に集中する瞑想で、一般的に「ヴィパッサナー瞑想」と呼ばれています。
参考:ヴィパッサナー瞑想 - Wikipedia
この瞑想では主に触覚に意識を向けます。
- 足の感覚
- 腕の感覚
- まぶたの感覚
- 呼吸が通る鼻の感覚
- かゆいところの感覚
- 痛いところの感覚
など。
かゆくなってもかきません。動かずに「かゆみ」の感覚だけに神経を向け続けます。「かゆい!」と思わずに、知覚をありのまま受け取るイメージです。
結構つらいですw
しかし、この瞑想を続けていると、感覚と思考の違いをはっきりと認識できるようになります。
かゆみを「かゆい」と思わなければ、かゆみではなくなります。痛みを「痛い」と思わなければ痛みではなくなります。ただそこで起こっている感覚でしかありません。実際に放っておくと感覚は消えていきます。
同じように、苦しみを「苦しい」と思わなければ苦しみではありません。よく言われる話しですが、瞑想中に体感として腹落ちしました。
7つの習慣の「主体的な反応」をトレーニングする瞑想ともいえます。
徐々に刺激に対する反応をコントロールできるようになりました。
そうすると「面倒くさい」と思っていることが、「ただ目の前にある片付けなければいけないこと」だと気づきます。「やりたくない」と思っていることが、「ただ30分間エクセルに文字を打ち込むこと」だと気付きます。
面倒くさいというラベルを貼ってしまうと、一層面倒くさそうに見えてきます。そう考えると、面倒くさいと思うこと自体が無駄で意味のないことだと感じるようになり、理性で優先順位を考えられるようになりました。
もちろんやる気をコントロールできないときもありますし、眠気に対してはまだ効果を感じられていません。
極めれば、脊椎反射のような強い生理反応以外はコントロールできるようになるのでしょうか。トレーニングを続けていきたいと思います。
体験3:優しさを育てる瞑想でスケールが大きくなる
3つ目の効果は、あらゆる人や生き物の幸福を願う「慈悲の瞑想」で得ることができました。デイビッド氏はこの瞑想を「優しさと思いやりを育てるプラクティス」と読んでいます。
本来マインドフルネスでは「怒りを静める」「共感力を高める」「感情のコントロール能力を高める」などの目的で慈悲の瞑想を行いますが、視野が広がるという別の効果を体験しました。
瞑想のやり方は「祈り」に近いです。
以下の言葉を頭の中、もしくは口に出して唱えます。
私は幸せでありますように
私の悩み苦しみがなくなりますように
私の願いごとが叶えられますように
私に悟りの光が現れますように
私は幸せでありますように(3回)
出典:慈悲の瞑想 - Wikipedia
最後まで唱えたら主語を変えて繰り返します。
- 「私」は〜
- 「私の好きな人(名前)」は〜
- 「好きでも嫌いでもない人(名前)」は〜
- 「私の嫌いな人(名前)」は〜
- 「生きとし生けるもの」は〜
言葉や順番にはいくつかバリエーションがあります。ただ、自分が幸せになって、それから人に優しくできるという考え方がベースにあるため、まず「私」から初めます。
その後は本気で幸せを願える人から嫌いな人へ。どんな人にも心の底から幸せを願うことができるように、難易度を上げながらトレーニングをしていきます。
そして最後は「生きとし生けるものが幸せでありますように」と、すべての生命の幸せを願います。人間だけではなく動物や虫もです。
普段の生活で世界中の生命を意識することはあまりないと思いますが、瞑想の最中は大真面目に全生命の幸せを願います。私はこの瞑想をやって、今までにない視野の広がりを感じることができました。
ビジネスの世界では、日常的にターゲットや顧客セグメントについて考えると思います。特にサービスの立ち上げ時期は、ターゲットの絞り込みが重要になるため、収縮思考で考えがちです。絞りに絞った人たちの悩みを解決することに全力を注いている状態といえます。
その頭で世界中の生命の幸せを考えるのは、あまりに新鮮でした。
地球の裏側に住む人。
サバンナで暮らす動物。
熱帯雨林で生きる虫。
島から島を旅する鳥。
「生きとし生けるものが幸せでありますように」と唱えながら、色んな生命をイメージしました。この瞑想をすると想像力が湧いてきて、様々な景色がカラーで浮かび上がります。
貧しくて子どもが売られてしまうような国の人々はもちろん、密猟者に撃たれて苦痛の表情を浮かべるゾウや、埋め立てられていく地面の中でもがき苦しむ虫など、今まで想像したこともない情景が頭のなかに映し出されていきました。
なぜこのイメージが浮かんだのかはわかりませんが、瞑想を続けるほど命にかかわる問題やグローバルな課題に苦しむ生命のことが浮かんできました。
慈悲の瞑想の本質ではないのかもしれませんが、私にとっては日常から非日常へ、視点が広がっていく感覚を得ました。
人の幸せ。
動物の幸せ。
森の幸せ。
日本の幸せ。
世界の幸せ。
地球の幸せ。
Googleマップを縮小していくみたいに見る範囲が広がり、本当に大切なものや意義を考えさせられました。同時に、自分のような凡人でももっとできることはあるのかもしれないというポジティブな気持ちが生まれてきました。
当然瞑想だけで現実の世界を変えることはできませんが、意識が変わり、それが世の中をよくするスタートになるのであれば大きな効果だと思います。瞑想を続けることで、間違いなく意識は変化します。(胸を張って言えるよう、ちゃんと行動に移さないといけないですね。)
本当にすごい人の話しも紹介します。Googleでマインドフルネスの研修プログラムを開発したチャディー・メン・タン氏は、マインドフルネスの浸透を通じて世界平和を実現すると公言しています。(実際にGoogleを退社してマインドフルネスの普及に取り組んでいます。)
Googleの元トップエンジニアがマインドフルネスで世界平和を目指しているとは、そのスケールの大きさに驚きます。
日本でも話題になったチャディー・メン・タン氏の書籍です。
サーチ・インサイド・ユアセルフ――仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法
- 作者: チャディー・メン・タン,ダニエル・ゴールマン(序文),一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート,柴田裕之
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2016/05/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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私は世界平和を考えるほど成長できていませんが、目の前のことからできることを増やしていきたいと思います。
最後に
約2年のマインドフルネスの実践と、デイビッド氏に学んで体感したことを書いてみました。
あくまで個人の体験なので、すべての人に同じ効果があるとは限りません。思考の知覚に敏感になりすぎて逆に混乱してしまったり、心が落ち着いて欲が減ったためにエネルギーが失くなったように感じる人もいたという話しも聞いたことがあります。
まずは試してみて、マインドフルネスを生活に取り入れるか判断すれば良いと思います。瞑想のやり方もベースになっている宗派によって多種多様ですから、最初は「深く考えずにやってみる」くらいの方が続くと思います。これをきっかけに仕事や人生の質が良くなる人が増えれば嬉しいです。
また瞑想の詳しいやり方なども書いていこうと思います。
お読みいただきありがとうございました!